とは言え、すぐに英語ができる様になった訳ではなく、相変わらず英語の方は低迷状態から脱せずにいた。そんな状態の中で、就職シーズンに突入する事になった。
自分の研究は水産資源保護と漁業を両立させるべく資源量を減らさない適正な漁獲量を推定するといったものだったので、公務員でもなって水産庁で漁獲量管理の仕事や隣国との漁業交渉や漁業取締りなどをする仕事をしたいと当初は思っていた。
一方でちょうどその頃、水産物の開発輸入ブームで、総合商社・専門商社が入り混じって、海外水産物の開発輸入を競いあっている時代で、現場のオペレーションの為に自分の大学からも多くの学生アルバイトが雇われ、アラスカや地中海など海外の現場に送りまれていた。現場は漁獲シーズン中はほぼ二十四時間稼動なので、かなりの体力仕事でもあり、現場を指揮する商社マンの下でサポートするテクニシャン(技術指導員)が現場に必要だった。
残念ながらロシア語短期留学で、海外に行くようなアルバイトはできなかったが、海外でアルバイトをして、そのお金で海外を放浪してから帰国する先輩や同級生を見て、羨ましく思うと同時に、世界を飛び回って水産資源を開発輸入する商社マンは格好よく思えた。
海が好きで東京海洋大学に入学したが、自分の研究テーマではあまり野外フィールドワークは無く、主に研究室内で理論的な研究する事が多かった。また公務員も海外の海を飛び回る仕事とは程遠く感じられ、公務員より商社への就職したい気持ちが強くなった。
漁業監督官は漁業取締船に乗って、違反操業の取り締まりをする現場仕事で、ロシア語も活用できる職業ではあるものの、せっかく留学でロシア人との友情を体験したのに、どうしても敵対する関係にならざるを得ないのは嫌だった。
ところが商社に就職するには、まず英語ができないと採用してもらえない。これは困った。でもロシア語はできる。そこで入社試験にロシア語がある会社を探した。
大学のOBも入社実績があり、海外から食品を開発輸入している食品専門商社で、ソ連や中国等の共産圏にも強い東京丸一商事が中国語とロシア語で入社試験をしている事を知った。
大学のOB訪問をしたその先輩はワインの買付け担当で、ブルゴーニュやモーゼルに出張して、現場のワイナリーを回って買付けしているといった様な話をしてくれた。エキサイテイングな仕事に感じられた。ロシア語のエキスパートも会社に何人も居るという事で、自分の成長にも繋がる気がして、結局この会社の入社試験を受ける事にした。
実際はロシア語だけでなく英語と一般常識の試験もあったが、ロシア語のお陰と面接試験もいいムードで終わり、無事に採用通知を貰った。ロシア語の試験のある会社は他に無かったので、迷わず入社を決めた。
就職が首尾よく決まり、気持ちも軽くなってところで、苦手な英語を克服すべく勉強する時間もできたし、ロシアや東欧のワインや高級食材を扱うグループ会社で学生アルバイトの募集があり、就職前にそこの会社で働き始め、充実した最後の学生生活だった。
カムチャッカ沖とアラスカ沖での操業