2018年10月11日木曜日

10. 海の男Joeの時代 その1

10.海の男Joeの時代 その1
 シシャモの買付けでカナダによく行く辺りから、ニックネームはJOEと名付けられるようになった。確かニューファンドランド島のパッカーのオーナーが名付け親だった記憶がある。実際に名刺にも「Yoichi Joe Miyagawa」とニックネームを刷り込むようにしていた。最初は「ヨウイチ⇒Yo」と呼ばれていたが、中国人みたいだし、欧州の名の「ヨハン」「ヨハネス」がアメリカ大陸に渡って「ジョン」「ジョーン」になったので、Yo⇒Joeという名に収まったという感じかも知れない。
 他の商社の買付けメンバーも皆ニックネームを持っていた。と言うのは取引相手は浜の魚屋だから、日本の名前なんか覚えてくれない。名前覚えてくれないと仕事面では圧倒的に不利になる。漁業者が「今日はいい魚が獲れた。さて誰に売ろうか?」と考えたとき、バイヤーは真っ先に思い浮かばれる存在でなくてはならない。「えーと何ていう名前だっけ?」ではダメ、「そういえばあの性格のいいJoeは、娘に可愛いお土産買ってきてくれたなあ~今回は彼に売ろうか!」という流れが欲しい。覚えやすいニックネームを持って、プライベートでも家族ぐるみで付き合う関係を維持する事がバイヤーとしては必要なのだ。できるだけ安く買って利益を出すのが「いいバイヤー」だと思っている人がいるが、本当にいいバイヤーは「良い品物を作る生産者と信頼関係を構築し、その関係を維持していく」バイヤーなのだ。だから一番汗をかいてリスクを背負いながら魚を獲ってくる漁業者やパッカーにお金が回るよう心がけている。ぶったたいて安値で買おうとするバイヤーは瞬く間に業界で情報が回ってバイヤーとして干されてしまう。
 魚の買付けの中でも水産バイヤーとして仕事の醍醐味を味わえるのはアラスカの鮭の買付けだろう。アラスカに鮭が遡上してくるのは年1回6-7月で、この短い期間で1年間消費する鮭を一度に仕入れる。鮭は日本でもマグロについで人気のある水産食材で仕入れる量=金額も大きい。この鮭の仕入れの良し悪しは一年間の所属する部署の利益に大きく影響する。
 脂の乗ったフォールスパスやカッパリバーの紅鮭、そしてメインの産地となるブリストルベイへと漁獲エリアは刻々と移っていく。もちろん漁獲した鮭は漁船から加工船に引き渡され船上で加工し、凍結する。もしくは陸上の工場で加工・凍結する場合もある。加工船でも加工工場でも、そこに行く陸路は無く、海からか空からか行くしかない。
 空から行くにしても飛行場がある訳ではなく、我々バイヤーは飛行機をチャーターして飛び回り、着陸できそうな近場に着陸する。水上に着水できる水上飛行機の場合もあるし、ヘリコプターの場合もある。一度ヘリコプターで加工船の上まで行き、ホバリングしている間に縄梯子で船に降りた事もある。チャーター飛行機もセスナ程度の小型機でめちゃめちゃ揺れるし、助手席に乗ってるとジェットコースターみたいで怖い。パイロットも「どこに着陸したらいいかな?」と自分に聞くし(俺に聞くな~と心で叫びながら)、地上の加工船と連絡して、彼らと相談して近くの浜辺に着陸・着水する。そこに加工船や加工工場から出迎えのボートが来てくれて、それに乗って加工船までたどり着くというスリリングなジャーニーだ。(まさに「クレージージャーニー!」)
 小型ボートで加工船に向かう途中の写真。ちょうど冷凍運搬船に冷凍後の製品を積み替えるところ
 「エアータクシー」と呼ばれるチャーター飛行機から降りて一安心の私。安堵の表情
 浜には当然管制塔はなく、それぞれの飛行機同士、衝突しないように連絡を取り合って離着陸している
 チャーター飛行機から見た加工船。これぐらいの時に船に無線に連絡して「どこに降りたらいい?」「近くの浜に降りて。そこまでボートで迎えに行くから~」てな会話をする
 ブリストル湾の紅鮭。24時間体制で生産は続く
 内臓を出して、頭をとる場合とらない場合がある。新巻鮭とかは頭つき
 どこの飛行場だったか、滑走路の近くで飛行機が来るのを待っていた

0 件のコメント: