2018年6月10日日曜日

7.初めての海外出張

入社間もない6月、まだ午前中は新人研修があり、午後配属先で仕事という日々を送っていた、そんなある日、カナダニューファンドランド島でのシシャモの買付けに誰が現地出張に行くかで課長と先輩課員で議論していた。それぞれ皆、仕事やプライベートの予定があって誰もその時期長期の出張が行けず、課長も困ったなという様子だった。
「できるだけ早く仕事をおぼえて、こんな時は自信を持って自分が行きますといつか手を上げたいな…」と思っていた矢先、課長から「宮川君、長期だけどカナダに出張に行ってくれる?」と突然言われた。新人研修も終わっていないし、仕事を覚える以前にまだ会社にも慣れていない自分がまさか指名されるとは寝耳に水、青天の霹靂だった。
 もちろん新入社員に日本を不在にして困る予定がある訳はなく、YES以外の回答の選択の余地は無いのだが、やはりその返答は「もちろん行きますが、私で務まりますでしょうか?」だった。課長の回答は「水産学部だし、まあなんとかなるんじゃない?」とあんまり説得力のない回答だった。「水産学部だから魚の事はある程度わかるよね?」という事だったのか…
 それでも干したシシャモ以外生のししゃもは見た事ないので、冷凍シシャモの原料を解凍して干シシャモを製造している那珂湊の水産加工業者に泊りがけで研修に行った。加工場に入って、見るだけではなかなかわからないだろうからと白衣の作業着を渡してくれて、それを着て作業ラインに入って他の作業員の人達と一緒に作業させて貰った。どういう作業かというと、解凍して塩水漬けしたシシャモがラインを流れているので、「ちゃんとしたシシャモ」だけを選んで鰓に串を通していくところをやらせて貰った。シシャモがぶら下がった串はラックに架けられ、乾燥機の中で乾燥され、一旦串からはずして大中小に大きさが選別されて、8~12尾ぐらいづつトレーに並べられてパックされ冷凍されて製造工程は終わり。これは大いに勉強になった。というのも簡単に言えば「ちゃんとしたシシャモ」の比率が高い原料が現地で買うべきシシャモ原料であり、「ちゃんとしていないシシャモ」=「製品化できない原料」の比率をできるだけ低く抑えるのが現地の生産現場に立ち会う目的でもあるからだ。
では「製品化できないシシャモ」とは何かというと、オス・傷のあるシシャモ・卵を持っていないメス・抱卵率の低いメス・卵が流れ始めているメスなどである。勿論鮮度が悪い原料、緩慢凍結の原料はそもそも全部が使えない原料になるので現場でも十分注意する必要がある。鮮度が悪い原料は原料搬入段階でリジェクトしなくてはならないし、凍結が終わった凍結原料はサンプリングして内部温度を測って、きちんと凍結されているか確認する必要がある。シシャモが卵を持つのは1年のうちでだいたい3週間ぐらいで、その中でも「子持ちシシャモ」として原料に使えるピーク時期はほぼ1週間と言われる。つまりその前後は卵は持っているが、抱卵率が低く買付けの対象とはならない。シーズンが始まる前に現地入りし、毎日メスの抱卵率をチェックし、ある程度メスが卵を持つようになったら買付けスタートである。一方シーズン後半は放卵して抱卵率が下がってくるので、どこで買付けをストップするのかも重要なタイミングだ。シーズン後半のシシャモは、放卵しやすい状態なので日本での加工段階でも卵が流れてしまうので要注意だ。買うのはメスだけで、オスメス選別機という機械でメスだけ選別するのだが、それほど精度の高いものでなく、オスもかなりメスに混じっている。その原料を一旦選別ラインに流し女工さんの目と手でオスやダメージのあるメスをはじいた後、冷凍される。
簡単に言えばそのたった1週間のうちに、日本で一年間で加工するシシャモ原料数千トンを一人で買付けしなければならない。勿論その1週間は漁民も工場も24時間稼動している。生産も数十キロ離れた生産工場何箇所かと契約し、ピークの1週間は仮眠をとりながら24時間、数箇所で生産されるシシャモの検品をしなければならない。
まざに「若者でしかできない仕事」でもあり、新人が抜擢された理由でもあった。



カナダニューファンドランド島に行く途中のニューヨークとモントリオールにて



島の風景・工場・シシャモのオスメス選別機



岸に放卵の為押し寄せるシシャモの大群
 


 

 

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