しかし課長は「一緒に行くお客さんは全然英語わからないから、英語に不安があっても宮川君は英語ができるフリをすればいいよ」との事。とは言え、「わからないのにわかったフリ」というのはそうそうできるものではないと当時は思えた。でもこのアドバイス、実は今でも実行していてロシア語でもスペイン語でもいつでもわかったような顔をし、語学が得意なフリと芝居をいつもしていて、結構それなりに効果がある。
ところが現地に同行した取引先の専務はいろいろと大変な方で、現地のパッカーにめちゃめちゃなクレームをつけるは、交渉は口汚く喧嘩腰だは、それを私に通訳しろと命じるは、さすがに私も困り果てた。
夜お酒を飲んでる時「ああいう言い方はちょっと通訳に困ります」と言ったら、「新人のクセに生意気言うな」といきなりぶん殴られた。かなりの酒乱だった(もうその取引先は潰れたので今は言えますが。ああいう経営者はいかがなものかと)
さすがに課長にSOSの電話をしたら「そう、やっぱり。まあでも現地にいる宮川君に任せるから頑張って」というなんとも大らかな課長らしいお応え。なんだ某専務の酒乱は皆さんご存知だったのか、もしかしたらそれが理由で皆さん出張を断っていたのか…でもそんな課長の話を聞いて腹が据わったというか覚悟ができたというか、それからは迷わず悩まずなんとか初めての海外出張を乗越える事ができた。買付けしてきたシシャモが完売し、利益が数字となって目に見えてきた時は会社に貢献できたという実感が湧き嬉しかった。
カナダ・ニューファウンドランド島でシシャモの産卵期になると、海岸にシシャモの大群が押し寄せてきて、海が真っ黒になると聞いていたが本当だった。岸ではシシャモが生きたまま打ち上げられ、海に入っていくと海水よりシシャモの方が割合が多くて、足の感触は気持ち悪かった。
水産学、魚類学を勉強してきた者としては、やはりこの光景は感動的で、そのことをその後
書いて旅行雑誌のエッセイコンテストに出したら大賞となってなんと賞金を貰ってしまった。
最初の出張では、お客に殴られたりタフな出張ではあったが、いいお客だったら先輩社員も快く出張を引き受けて、自分に出番はなかったも知れない=彼のお陰で出張に行けたと思ったら、まあ良い思い出となった。