2020年9月20日日曜日

39 アメリカンライフ 仕事編②

  39 アメリカンライフ 仕事編②

米国駐在時代、米国法人での水産物の買付け業務は自らが仕切っていた。

水産物買付けの仕事で一番面白いのは、誰も利用していない未開発の水産物を発見して、それを商品として商業化する事である。そういう意味ではメキシコ湾のキャノンボールクラゲの開発輸入はエキサイティングな仕事だった。

メキシコ湾にはキャノンボールジェリーフィッシュ(大砲の弾のクラゲ)というクラゲが生息しており、種としては中国で高級といわれるクラゲと同じ種類だという事が判明した。とは言えクラゲのような現地で無価値なものを漁獲しようとするものはおらず、また漁獲の方法、運搬、加工のノウハウを持つものも誰も居なかった。

そもそもクラゲは大の嫌われ者で、フロリダ州では時に大量発生し、現地の主な漁業であるエビ漁にとっては、漁の邪魔になり、エビが全く獲れず、クラゲだけが網に入って漁業者の悩みの種であった。また観光業にとっても毒は無いものの、海岸に大量に打ち上げられると気持ち悪い、景観も損なうという事で観光業にとっても悩みの種であった。とは言え、駆除にはかなりの費用がかかり、また廃棄する場所にも困るという事でなかなか州政府も対策が打てずにいた。

そんなところに現れた日本人バイヤーはなんと皆の悩みの種だった邪魔者のクラゲをお金を出して買ってくれるという事で、フロリダの地元紙The Star新聞の一面に大大的に報じられた。クラゲは中国・日本では高級食材で、コラーゲンが多く含まれて肌にもよい、「チーズ粥と一緒にいかが」という見出しとなっていた。この新聞の一面にも私と同行者の写真が掲載された。


現地パートナーはラフィールドフィッシャリーズ社で地元漁業者の中ではリーダー格的な会社で、熱心にクラゲ事業に取り組んでくれた。原料はほぼタダだし、大量発生すれば海で水をすくうのと同じぐらい漁獲は簡単ではあるが、運搬と処理ではいろいろ苦労があった。

 クラゲは9割の成分は水で、原料から塩漬けクラゲの輸出用製品が出来るまでは歩留まり5%という低さ、つまりクラゲ100トン漁獲しても輸出製品は5トンしかできないという事である。100トンとって帰港して水揚げしてもお金になるクラゲは5トンだけという効率の悪さ、またその100トンのクラゲを2か月近く塩漬けするのだが、その手間と保管するスペースが大きな課題であった。また十分に塩漬けされたクラゲでも更に運搬中に脱水が進み、5トン購入したクラゲが日本に到着してお客に販売した時は4トンしかなく、重量不足でクレームになる事が多々あった。とはいえアメリカで出荷する時は5トンあったのは事実で、「じゃあどうしたらいいの?」と問い詰られ、何%か重量多めに入れて貰ったら、後は日本側で何とかする、一旦自社でこれ以上目減りしない最終製品に加工してからお客に販売するなど、いろいろ苦労した。

しかし日本でのフロリダ産クラゲの品質面・味の面では評判がよく、レストランチェーンにも採用が決まったり、ビジネスとしては上手くいき、水産物の開発輸入のバイヤー冥利に尽きる仕事であった。このビジネス何度もフロリダに出張し、調査の為にフロリダ半島の海岸線で回ったりしたので、結構なフロリダ通にもなる事ができた。




その後、フロリダでクラゲの不漁の時期があり、今度はメキシコ湾対岸のメキシコ側の海岸にクラゲを求めて出張したが、メキシコ湾側の海岸には麻薬取引の拠点があるとの事で治安の悪い場所も多く、重装備のガードマンに同行してもらい海岸を回ったが、そんな環境での事業投資は困難で、結局メキシコ側からの買付けは断念した。